は、とるものもとりあえず、重大な報告をするため、黄島長官のもとにかけつけたのだった。
「まことに、遺憾です。私は、長官に、面《おもて》をあわせる資格がありません」
「うむ、君の骨折《ほねおり》は感謝するが、せっかく、手に入れながら、失うとはのう」
長官は、X塗料の棒のことを残念がっているのだった。
「おい、帆村君。残っているのは、今ここにあるこれだけか」
長官は、卓子のうえに広げられた散薬《さんやく》の紙包ほどのものを指さす。その紙のうえには、なんだかくろずんだ粉が、ほんの少量、ほこりのようにのっていた。
「はい、これだけであります。これは、塗料の棒を包んであった油紙を、よく注意して、羽根箒《はねぼうき》ではき、やっとこれだけの粉を得たのです」
「実に、微量だなあ。これじゃ、分析もなにもできまい」
「はあ」
帆村は、唇をかんで、頭をたれるより外に、こたえるすべをしらなかった。
「しかし、これでも無いよりはましだ。いたずらに、取り返しのつかぬことをなげくまい。そして、不利な現状の中から、男らしく立ち上るのだ」
長官は、帆村のために、慰《なぐさ》めのことばをかけた。帆村はいよいよ穴
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