、トラ十の顎《あご》をガーンと打った。
「えーッ!」
「しまった。うーん」
トラ十、顎をおさえた。
つづいて帆村は、ピストルをたたき落した。しかしトラ十は無類の豪《ごう》の者である。一、二度は、どうと艫《とも》にたたきつけられたようになったが、すぐさま、やっと、かけ声もろとも、はね起きた。
「小僧め、ひねりつぶすぞ」
「なにをッ」
せまい船内で、はげしい無茶苦茶な格闘がはじまった。勝敗は、いずれともはてしがつかない。船は、今にも、ひっくりかえりそうである。帆村は、そのたびに、船の重心を直さなければならなかった。
「これでもかッ!」
「ぎゃッ」
帆村の、猛烈な一撃が、ついに勝敗をけっした。トラ十はよろよろと、後によろめくと、足を舷《ふなばた》に払われ、あっという間に大きな水煙とともに、海中に墜落した。
帆村は、すぐさま艫へとんでいって、舵をとった。そして水面に気をくばった。
ところが、ふしぎなことに、懐中に落ちたトラ十は、いつまでたっても浮いてこなかった。二分たっても、三分たっても、とうとう十分間ばかり、水面を見ていたが、ついにトラ十は浮かんでこなかった。
「はて、落ちるとき
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