こっちを向いたら面《つら》を叩《たた》きわるぞ」
「へーい」
なにをいわれても、帆村は、へーいであった。トラ十はそこでやっと安心のていで、片手をつかって青い封筒をやぶった。中には、数枚の紙切がはいっていた。トラ十は、しきりにその中をのぞきこんでいたが、
(おやッ!)という表情。
取出した紙切を、一枚一枚あらためてみたが、それは、ことごとく白紙《はくし》であった。なんにも書いてなかった。白紙の重要書類というのがあるであろうか。
「ちえ、うまうま、きゃつのため、一ぱいくわされたか!」
トラ十は、くやしさのあまり、つい、ことばに出していった。
「どうしました、船長さん」
帆村は、うしろをふりかえった。
トラ十は、封筒と白紙とを重ねて、べりべりッと破った。そして、海中へなげこもうとしたが、急に気がかわって、破ったやつを、ふたたびジャケツの下におしこんだ。そのトラ十は、帆村に、なぜこっちを向いたのかと、叱りつけはしなかった。
「うーん、あの野郎……」
トラ十は、よほどくやしいとみえ、ひとりで獣《けもの》のようにうなっている。
帆村は、実は、さっきから、トラ十のすることを、すっかり見
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