二人はだまりこんでしまった。
帆村が、じっとみていると、トラ十は、霧の中の海を、また北にむけて舵《かじ》をとっているのであった。それは、朝日の位置からして、方角がちゃんとわかった。
そのトラ十は、ときどき、霧の中をとおして、日の光を仰ぎつつ、胃袋のあたりを、ジャケツのうえからおさえるのであった。なにか彼は気にしていることがあるらしい。
「おい、曾呂利よ」
「へーい」
「へーい」というへんじが、トラ十の気に入った。
「お前、艫《とも》の方をむいて船がとおらないかみていてくれ。おれが、よしというまで、こっちを向いちゃならねえぞ。いいか」
「へーい。しょうちしました」
帆村探偵は、いいつけられたとおり、艫の方を向いた。
トラ十は、それをみるより、にわかにそわそわしだした。彼は、細長い腕を、ジャケツの中にさしこんだ。やがて手にとりだしたのは、くしゃくしゃになった青い封筒であった。
それは、師父《しふ》ターネフからうばった、重要書類|入《いり》の袋であった。
トラ十は、帆村の方を注意ぶかく睨《にら》んだ。
「やい、やい、やい。いいつけたとおり、艫の方へまっ直《すぐ》に向いていねえか。
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