に、かまわないがいい)
 そういって、曾呂利青年は、足がわるいのに、一番高い上段の寝台へのぼり、もう息をひきとりそうな老犬のように、小さくなって、寝てしまうのだった。
 夕暮の空の下では、房枝は、一時、両親を恋うるセンチメンタルな可憐《かれん》な少女にかわるが、ふだんは、すさまじい世渡りにきたえられて、十五歳の少女とは見えないほど、きびきびした少女だった。
 房枝は、松葉杖をついた曾呂利のあとから、三等食堂の中へ入っていった。
 ひろい食堂は、電灯も明るく、食慾のさかんな三等船客が、もう一ぱい、つめかけていた。皿やナイフの音が、かしましくするだけで、だれも、むだ口をきく者がなく、一生けんめいに皿の中のものを、胃袋へつめこんでいた。
 トラ十も、さかんにぱくついているので、曾呂利青年や房枝の入ってきたのも知らぬげであった。
「おい、ソースだ、ソースだ。ソースのびんがないぞ」
 トラ十が、たくましいこえで、どなった。
「ソースのびんは、目の前にあるじゃないか」
 ようやく、食事はだいぶん進んだらしく口をきく客もでてきた。
「目の前? うそをつけ。目の前には、ソースのびんなんかないぞ」
 ト
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