ラ十は、どなりかえしたが、そのとき、おやという表情で、目をみはった。ソースのびんは見えないが、彼の目の前には、うつくしい大きな花籠《はなかご》があった。何というか、色とりどりの花を、一ぱいもりあげてある。どう見ても、三等食堂には、もったいないくらいの、りっぱな花籠だった。
「ほら、ソースのびんは、その花籠のかげに、あるじゃないか」
「なるほど」
と、トラ十は、うめくようにいって、ソースのびんをとったが、彼の目は、なぜか、このりっぱな花籠のうえに、ピンづけになっていた。
警報《けいほう》
この雷洋丸の無電室は、船長以下の幹部がつめかけている船橋《せんきょう》よりも、一段上の高いところにあった。
それは、ちょうど午後七時五十分であったが、この無電室の当直《とうちょく》中の並河技士《なみかわぎし》は、おどろくべき内容をもった無電が、アンテナに引っかかったのを知って、船橋に通ずる警鈴《けいれい》を押した。
すると、間もなく、扉《ドア》があいて、一等運転士が、自身で電文をうけとりにとびこんできた。
「警報がはいったって、その電文はどれだ」
無電技士は、だまって、机の上の受信紙
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