ほえたてていた。
たしかに正式の団員ではなかったが、この気の毒な曾呂利に、房枝は、同情をよせていた。そばで、トラ十の雑言《ぞうげん》をきいている房枝の方が、腹が立って、しらずしらず顔が青くなるほどだった。
曾呂利が、一つ男らしく立って、口先だけでも、トラ十をがーんとやりかえすといいと思うのだったが、曾呂利本馬は、いつも無口で、小学一年生のように、えんりょぶかく、よわよわしい性格のように見え一度もやりかえしたことはなかった。
房枝は、ふんがいのあまり、こっそりと、本馬にいうときがあった。
(ねえ、曾呂利さん。あたしには、あんたがどうしても、弱虫に見えないの。男なら、なぜ一つ、思いきり、きびしく、いってやらないの。あんた、わざと、強いのをかくしているんじゃない?)
と、ませた口で、年上の青年をなじると、曾呂利青年は首をふって、
(いやいや、僕は、だめですよ。悪口をいわれても、仕方のない人間なんです。ほうっておいてください)と、目を伏《ふ》せていう。
(そう。ほんとうに、力なしの、弱虫なの、じゃあ、あたしが、これから加勢してあげるわ)
(いやいや、めっそうもない。房ちゃんは、僕なんか
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