》いた。
 だれかが寝台のうえから、ハーモニカをふきはじめた、調子はずれのばかにしたような、間のぬけたふき方であった。
 トラ十は、目をぎろりと光らせて、その方へ、ぐっと太いくびをねじった。
「ハーモニカを、やめろ! 胃袋に、ひびが入らあ」

   曾呂利青年《そろりせいねん》

 房枝が、三等食堂へ、いきつくかいきつかないうちに、がらんがらんと、食事のしらせが、こっちの船室まで、きこえた。
 トランプをしていた者は、トランプを毛布《もうふ》のうえにたたきつけ、古雑誌を読んでいたものは折目をつけてページをとじ、いずれも寝台からいそいでとび下り、食堂の方へ走って行った。団員の娘たちは、あとで、いたずらをされないように、編物《あみもの》の毛糸を、そっと毛布の下にかくしていくことを忘れなかった。
 一番あとから、この部屋を出ていった顔の青い若者があった。彼は、すこぶる長身であったが、松葉杖《まつばづえ》をついていた。右足が、またのあたりから足首まで、板片をあて、繃帯《ほうたい》で、ぐるぐると、太くまいてあった。
「曾呂利本馬《そろりほんま》さん。手を貸してあげましょうか」
 通路で、房枝が向
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