八人室で、ミマツ曲馬団の一行で、しめていた。
「おい、房公《ふさこう》!」
 丸窓にしがみついて、後向きになっていた房枝が、あらあらしいこえで呼ばれた。
 房枝は、そのこえをきくと、からだが、ぴりぴりとふるえた。「トラ十」という通り名でよばれて皆から恐《おそ》れられているらんぼう者の曲芸師|丁野十助《ていのじゅうすけ》だった。
「こら、房公。きこえないふりをしているな。こっちにはよくわかっているぞ。おい、食堂へいって、おれの飯《めし》をさいそくしてこい。あと五分間しか待てないぞと、きびしくいってくるんだ」
 房枝も、やはり曲芸の方だった。綱わたりや、ブランコで、売りだしていたトラ十の丁野十助も、同じようなものをやって、お客のごきげんを、うかがっていたが、ちかごろ、房枝の方にお客の拍手が多くなったのをみて、いやに房枝に、ごつごつあたるようになった。
 房枝は、だまって、丸窓をはなれた。そして、指さきで涙をちょっとおさえて、ばたばたと食堂の方へかけだしていった。
「ちえっ、あいつめ、十五になって、いやになまいきな女になりやがった」
 と、トラ十は、房枝のあとを見送り、きたないことばを吐《は
前へ 次へ
全217ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング