たが、はっとした面持で、
(この人は、どうしても、帆村荘六という名探偵にちがいないと思うんだけれど。なぜ、曾呂利本馬などと、名をかえているのでしょう)
 と、ふしん顔。
 そのとき、電話のベルが鳴った。看護婦が出ると、船長に急用だという。そこで船長が、かわって電話機をとりあげたが、一言二言《ひとことふたこと》いううちに、船長は、おどろきのこえをあげた。
「えっ、見つかったか。ふーん、そりゃ、たいへんだ。今すぐ、わしは、そこへいく」
 なにが見つかったというのだろう。
 それをきいて、曾呂利本馬が、すっくと立ち上った。松葉杖なしで、曾呂利がつっ立ったのである。

   石炭庫《せきたんこ》の中

「おい、見つかったそうだ、ミマツ曲馬団の松ヶ谷団長が、石炭庫の中で」
 船長は、おどろくべきことばをのこすと、すぐさま医務室をとびだした。
「えっ、団長さんが、見つかったんですって、まあ、よかったわ」
 と、房枝は、よろこびの色をうかべて、曾呂利本馬の方をふりかえった。
 行方不明をつたえられた二人のうち、一人は見つかったのだ。ことに、松ヶ谷団長が、このまま、行方不明だったら、このミマツ曲馬団は
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