、これから満足な興行《こうぎょう》ができないであろう。やがて、一座は解散となって、団員たちは、ばらばらになってしまうにきまっている。ああ、そんなことになれば、房枝のような孤児《こじ》を、だれが面倒みてくれるであろうか。団長が見つかったという知らせに、房枝が、ほっと安心の吐息《といき》をもらしたのも、わけのあることだった。
「あ、曾呂利さん」
 曾呂利の方をふりかえった房枝は、いぶかしそうに、彼にこえをかけた。
 曾呂利本馬は、足がわるく、おまけに、ニーナ嬢につきあたられて、後頭部をいやというほどうったので、ふらふらの病人であるはずのところ、彼が、足もともしっかり、すっくと立ち上っていたのを見て、房枝は、たいへんふしぎに思ったのである。
「曾呂利さん。もうおなおりになったの」
「いや、あいかわらず痛むのですけれど、今、団長が見つかったときいたものだから、おどろいて、思わず立ち上がったんですよ」と、彼は、いいわけしながら苦笑した。
「いやな曾呂利さんね。そんならんぼうなことをなさると、いつまでも丈夫になれないわ。ねえ、ドクトルさん」
 ドクトルは、看護婦相手に、船員赤石の容体を見守っていた
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