かあるのだ。今、手わけして、探してはいるがね。ねえ、ドクトル、あんたも、なにかいい智恵をひねりだしてくださいよ」
 船長は、苦笑《くしょう》していった。
 そのとき、房枝の手をひっぱるものがあった。房枝は、船長とドクトルの対話に、気をとられていたが、手をひっぱられたので、その方をみると、それは曾呂利がやったのだ。
「ねえ房枝さん。そこへ船長さんがもってきた花を、私に見せてください」
「まあ、あなたが見て、どうなさるの」といったが、房枝は、テーブルのうえから、花をとって、曾呂利に渡した。
 曾呂利は、その花を手にとって自分の鼻に押しあてた。そのとき、彼の目が、急に生々と輝《かがや》きだした。
「ほう、この花は、非常に煙硝《えんしょう》くさい。おや、それに、なめてみると、塩辛《しおから》いぞ、海水に浸っていたんだ。すると、この花は、船の上にあった花ではない、海の中にあった花だ。これは、ふしぎだ」
 曾呂利は、まるでなにか怪物につかれた人のようにぶつぶつと口の中でひとりごとをいった。しかし房枝は、その一言半句《いちげんはんく》も聞きのがさなかった。そして、曾呂利の顔を、穴のあくほど見つめてい
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