、わりあい、しっかりしたこえでいった。曾呂利は、ニーナとの約束を守ったのである。というよりも、うそをついたのである。彼は、ニーナ嬢から握らされた紙幣に、良心を売ったのであろうか。
疑問《ぎもん》の空襲《くうしゅう》
曾呂利が、医務室につれこまれるところを、ちょうどそこを通りかかった房枝が、見かけた。
「まあ、曾呂利さん。足のわるいのに、ひとりで出かけたりするから、また、どうかしたんだわ」と、つづいて、彼女も、曾呂利のあとから、医務室に入った。
曾呂利は、診察用の肘《ひじ》かけ椅子に、腰をかけさせられていた。
船医が、すぐやってきて、曾呂利が痛みを訴《うった》える後頭部をかんたんに診察した。
「なあに、大したことはありませんよ。湿布《しっぷ》してあげましょう」
船医は、看護婦を呼んで、湿布のことを命じているとき、入口の扉をあけて、船長が入ってきた。
「やあ、ドクトル。赤石《あかいし》は、その後、どうです」
赤石とは、れいの爆発事件のとき、甲板でたおれた船員の名だ。
「やあ、船長。赤石君は、奥に寝かせてあるが、もうすこし様子を見ないと、なんともいえませんねえ」
「うむ、
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