のらしかった。
 どのくらいたったかしらないが、房枝が、気がついたときには、思いがけなく前に一台の自動車がとまっていた。
「おお、お嬢さん。しんぱいいりません」
 このとき、ひじょうに香《かおり》の高い香水が、房枝の鼻をぷーんとついた。それは房枝を、抱《かか》えおこしている婦人の服から匂ってくるものであった。その婦人は日本人ではない。
「ありがとうございます」
 房枝は、礼をいった。
「今、自動車でお送りします。かならず、しんぱいいりません」
 そういうと婦人は、英語で、べらべらと喋《しゃべ》りだした。
「よろしい。僕一人で大丈夫だ」
 大きなからだの外人の男が、房枝をかるがると抱いて、車内にうつした。
 車内は、りっぱであった。これはたいへんな高級車だ。座席には、すでに黒川がのっていて頭をうしろにもたせかけていた。よく見ると、黒川の頭は、ハンケチで結《ゆ》わえてあり、その一部には、赤い血がにじみだしていた。
「あっ、黒川さん。けがをしたのね。しっかりしてよ、ねえ黒川さん」
 房枝は、黒川をゆりうごかした。
 すると黒川は、ちょっと、からだをうごかし、苦しそうに眉《まゆ》をよせたが、

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