房枝は、かなしくなった。いよいよとなったら、すきを見て、トラ十を蹴ってやろうと、最後の腹をかためた。
そのときである。二人のうしろにいたトラ十が、とつぜんおどろきの声をあげた。
「あっ、だれだ。じゃまをするのは」
うーむと呻《うな》って、トラ十は、あばれ出した。
「トラ十、こんなところで君にあえるなんて、こんなうれしいことはないよ」
「そこを放せ。お前はだれだ」
黒川と房枝は、うしろをふりかえった。
どこから降って湧《わ》いたか、一人の男が、トラ十のうしろから組みついている。そしてピストルを握ったトラ十の腕を、逆に高くねじあげている。
房枝は、トラ十をおさえてくれる何者かの方へ応援したのがいいのだとは思ったが、手を出しかねていると、トラ十のもっていたピストルが、下におちて、階段をころがった。
「さあ、これで、もうおとなしくしろ」
青年は叫んだ。
そのこえ! 房枝ははっと胸をつかれたように思った。
「あ、帆村さんじゃありません」
すると、青年はすぐこたえた。
「そうです、帆村です。あぶないところでしたね」
「なんだ、きさまは帆村荘六か。ふーん、帆村なんぞに、ひねられてたま
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