わぎとなった。
 ふとんをしく、くすりびんをのせた盆をならべる、手拭《てぬぐい》をしぼる。楽屋が、舞台みたいになってしまった。そして房枝は、そこに病人らしく横になった。
「房ちゃん、すまないわねえ」
 スミ枝が、枕もとへきて、小さいこえで気の毒がった。
「いいのよオ、心配しなくっても」
 房枝は、スミ枝をなぐさめた。房枝としても、道子夫人に、道子夫人が何者であるかは、まだ知らないが、あいたかったのであった。夫人に、めいわくをかけるのをおそれて、面会をことわってもらったのである。だから、スミ枝の行きすぎのためとはいえ、こうして、夫人にあえることになって、うれしくないことはない。
「まあ、あなた」
 道子夫人は、こえをうるませて、房枝の枕もとにきた。
「房枝さん、おくるしいのですか。どこがおわるいのです」
 房枝は、道子夫人に見つめられて、まぶしくてならなかった。
「いいえ、たいしたことはございませんの。それよりも奥様、りっぱなお花環《はなわ》をいただきましておそれ入りました」
「なんの、あれほどのことを、ごあいさつでかえっておそれ入りますわ。でも、もうお目にかかれないかと思って悲しんでお
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