のよ。あたし困っちゃったわ。あんた、ちょっとあってあげてよ」
「あら、困ったわねえ」
「こらスミ枝、お前のいい方がわるいから、そんなことになったんだぞ」
「いいえ、その奥様が、とても、房枝さんに熱心なんですよ。あたしでなくても、だれでも、負けてしまうわ」
そういっているとき、幕のむこうで婦人のこえがした。
するとスミ枝は、いよいよあわてて、
「ほら来たじゃないの。あんた、おねがいだから、楽屋へいってふとんを出して寝ていてよ。あたし困ることがあるのよ」
といって、スミ枝は泣きだしそうな顔で、房枝の耳に口をあてると、
「房ちゃん、これ秘密だけれど、実はあたし、いただいてしまったのよ。あんたがあってくれないと、あたし、あの奥様に、せっかくいただいたおあしを返してしまわなければならないんですもの。ちょいと察《さっ》してよ」
と、つげて、房枝にあってくれるように頼みこんだ。
そのように、種あかしをされてみると、情《なさけ》にあつい房枝は、スミ枝の立場を考えてやらないではいられなかった。そこで、とうとう彦田博士夫人道子にあう決心をしたのだった。
見えない糸
楽屋は、一時、大さ
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