と見て通る。なにしろ、このへんに見なれない垢《あか》ぬけのした洋装をしている房枝だったから、特に目に立ったのであろう。
 房枝は、人に見られることは平気の職業を持っていたが、それは、曲馬団の舞台へあがったときのことで、こうして今、路傍に立っているところを、じろじろ見つめられるのは、はずかしかった。
 しぜん、房枝は、道の方に背を向け、はるかに見える極東薬品工場の方を、ぼんやりと見つめていた。
 その工場には、三本の、たくましい煙突《えんとつ》が立っていて、むくむくと黒い煙をはいていた。その煙突を見、まっ白に塗られた工場を見ていると、房枝は、なんとはなしに、それが雷洋丸《らいようまる》の生まれかわりのような気がしてきた。
 ああ、思えば、ふしぎな運命に、ひきずられてきたものである。雷洋丸が爆沈せられたあと、怒涛《どとう》荒《あ》れくるう、あのような大洋から、よくぞ救い出されたものである。
「ああ帆村荘六《ほむらそうろく》さまは、どうしていらっしゃるだろう?」
 房枝は、しばらく忘れていた、たのもしい人のことを、ここでまた新しく思い出した。
 そうだ、たのもしい青年探偵、帆村荘六! せめて
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