だ。いいかね、後三十分で僕の交代時間が来る。そうしたら兎《と》に角《かく》二人でお由さんの屍体《したい》を遠くへ運んで行こう。詰まり君とお由さんとの仲を嗅ぎ出されない為にだよ。そして君は、朝の一番列車で当分何処かへ姿を隠してしまうのだ。それが一番安全だからね。――後三十分だ。君はこの屍体を守って、変電所の物置の後で待っていて呉れ給え。忘れても声を立てちゃ駄目だぜ。相捧は喜多公なんだからね」
 それは国太郎にとって非常に頼母《たのも》しく思われた程実に冷静な分別《ふんべつ》であった。ただ不安なのは技手の言う相棒の喜多公、即ち変電所の技手補|田中喜多一《たなかきたいち》で、これは吉蔵親分の一の乾分《こぶん》である上に、秘かにお由に想いを掛けているのだと、国太郎は何時かお由自身の口から聞かされた事もあるので、運悪くこうした所を見附かろうものなら、親分に告げるまでも無く半殺しの目にあわされるのは言うまでも無かった。
 然し、幸い薄氷《はくひょう》を踏む思いの長い三十分は、どうやら無事に過ぎたらしい。やがて足音を忍ぶようにして土岐健助が物置のかげへ来てくれたのは、もう午前二時を少し廻った頃であっ
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