た。
「じゃ、いいかい」
 言葉少なに技手はこう言って、無雑作にお由の頭を抱きあげた。国太郎は夢中で足の方を持ったが、どっしりと重い死人の体は思ったより遥かに扱い難く、物の十|間《けん》と歩かぬ中《うち》にもう息切がして来た。そして揺《ゆす》りあげる度にしどけなく裾《すそ》が乱れて、お由好みの緋縮緬《ひぢりめん》がだらりと地へ垂れ下る。その度に彼等は立止って、そのむっちりと張切った白い太股《ふともも》のあたりを掻《か》き合《あわ》せてやらねばならなかった。
「これじゃ遣り切れ無い、両方から腕を担《かつ》いで見ようよ」
 然し何《ど》うして見たところで硬張った死人を運ぶのは可成《かな》りの重荷であったが、他に工夫のしようもなかったのでその儘歩き続けた。この露路をぬけてドンドン橋を渡ると瓦斯会社の横に出る。それを真直ぐに、左手は深い小川をへだてて墓地、右手は石炭置場になっている暗い道を、何うにか大河畔《おおかわばた》まで忍んで行った。そこを左に折れて河添いに一丁ほど歩くと又左に折れて、間もなく百坪ばかりの空地《あきち》へ出る。空地の中央には何んとかいう小さな淫祠《ほこら》が祀《まつ》ってあ
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