白蛇の死
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)浅草寺《せんそうじ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一本|無雑作《むぞうさ》に
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 浅草寺《せんそうじ》の十二時の鐘の音を聞いたのはもう半時《はんとき》前の事、春の夜は闌《た》けて甘く悩《なやま》しく睡っていた。ただ一つ濃い闇を四角に仕切ってポカッと起きているのは、厚い煉瓦塀《れんがべい》をくりぬいた変電所の窓で、内部《なか》には瓦斯《ガス》タンクの群像のような油入《あぶらいり》変圧器が、ウウウーンと単調な音を立てていた。真白な大理石の配電盤がパイロット・ランプの赤や青の光を浮べて冷たく一列に並んでいた片隅には、一台の卓子《テーブル》がポツンと置かれて、その上に細い数字を書きこんだ送電日記表《そうでんにっきちょう》の大きな紙と、鉛筆が一本|無雑作《むぞうさ》に投げ出されていたが、然《しか》し当直技手の姿は何処にも見えなかった。
 今、全く人気《ひとけ》の無いこの大きい酒倉《さかぐら》のような変電所の中では、ただ機械だけが悪魔の心臓のように生きているのであった。
 スパーッ!

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