リンリンリンリン。
 突然白け切った夜の静寂《せいじゃく》を破って、けたたましい音響が迸《ほとばし》る。毒々《どくどく》しい青緑色《せいりょくしょく》の稲妻《いなずま》が天井裏《てんじょううら》にまで飛びあがった。――電路遮断器《サーキット・ブレッカー》が働いて切断したのだった。
 と、思い掛けぬ窓のかげから素早く一人の男が飛び出して、配電盤の前へ駈けつけた。彼は慣れ切っている正確な手附きで、抵抗器の把手《ハンドル》をクルクルと廻すと、ガチャリと大きな音を立てて再び電路遮断器《サーキット・ブレッカー》を入れた。パイロット・ランプが青から赤に変色して、ぱたりとベルが鳴止《なりや》む。その儘《まま》技手は配電盤の前に突っ立って、がっしりした体を真直《まっす》ぐに、見えぬ何物かを追っているようであった。もう四十年輩の技術には熟練しきった様な男である。――一分、二分。春の夜は闌けて、甘く悩しく睡っていた。
「土岐《とき》さん! 土岐さん、一寸《ちょっと》……」
 不意に裏口へつづく狭い扉《ドア》が少し開いて、その間から若い男の顔がヒョクリと現われた。ひどく蒼白い顔をして、明らかに何事か狼狽《
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