ろうばい》しながら四辺《あたり》を憚《はばか》っていた。
「おう」くるりと振返った技手は、
「国ちゃんか、なんだい?」と、何気《なにげ》なく配電盤を離れた。
「あの、一寸来てくれませんか、何《ど》うも可笑《おか》しいんです。お由《よし》が仆《たお》れちゃって」
青年は一途《いちず》に救いを求めるような、混乱した表情を見せなから、乾《ひ》からびた言葉をぐっと呑みこんだ。
「お由――」
「ええ、仆れちゃったきり、どうしても起きないんです。困ってしまってね」
土岐|健助《けんすけ》は濃い眉を寄せてチラリと窓の方を眺めた。
「弱ったな、相棒《あいぼう》は起せないし――」
「ええ?」
「喜多公《きたこう》なんだよ。考えものだからね」
さっと青年の眼は怯《おび》えあがった。
「ま、この儘にして置いて一寸行って見よう。何処だい?」
技手は思い返した様に、気軽に青年の肩を押しながら裏口へ出た。乏しい軒灯《けんとう》がぽつんぽつんと闇に包まれている狭い露路《ろじ》を、忍ぶように押黙って二十歩ばかり行くと、
「土岐さん、此処《ここ》!」と、青年は立止って道を指した。
顔を地につけるようにして見る
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