と、仰向《あおむ》きになった、銀杏《ぎんなん》のようなお由の円い顔が直ぐ目についた。頸《くび》から、はだけた胸のあたりまで、日頃自慢にしていた「白蛇《しろへび》」のような肌が、夜眼にもくっきりと浮いている。のけぞっているので、髷《まげ》は頭の下に圧しつぶされ、赤い手絡《てがら》が耳朶《みみたぶ》のうしろからはみ出していた。
「お由、お由!」
 青年は憚るように声を殺して呼びながら、強く女を揺ぶったが、ぐったりと身動きもしなかった。彼は前にも幾度かそうして見たのであったが、もう一度機械的に黒繻子《くろじゅす》の襟《えり》を引き開け、奇蹟にでも縋《すが》るようにぐっと胸へ手を差し入れた。直ぐにむっちりと弾力のある乳房が手に触れたが、その胸にはもう、彼を散々悩ましたあの灼《や》けつくような熱は無く、わずかに冷めて行くほの温味《あたたかみ》しか感じられなかった。心臓は?(ほら、こんなにね)と、よく彼の手を持って行っては、その強い躍動を示して笑った心臓も、パタリと止ってしまっている。
「ああ、心臓が止っている――」
「なに、心臓が!」
 ぼんやり中腰《ちゅうごし》になってお由の白い顔を眺めていた
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