土岐健助は、初めて愕然《がくぜん》と声をあげた。そして、おずおずとお由の硬張《こわば》った腕を持ったが、勿論《もちろん》脈《みゃく》は切れていた。
「国ちゃん、一寸胸を開けて」
青年が力一杯襟をはだけるのを待って、土岐は心持ち顔を赤らめながら、お由の乳房の下へぴたりと耳を押しつけて見た。少しの鼓動も無い。すぐに眼瞼《まぶた》をひらいて見たが、瞳孔《どうこう》はもう力なく開き切っていた。
「死んでいる。もう全く呼吸が無くなっているんだ」
「大変なことになったな――でも、どうして死んだんでしょう」
「どうしてって君、君は今までどうしていたんだい?」
そう聞かれると、さすがに青年は此の年輩《ねんぱい》の技手に対して、赤い顔をした。が、何《いず》れにしても今の場合土岐の力を借りるより外、この気の弱い青年には縋るものが無かったので、前後も無く早口にこう話し出した。
――宵《よい》の灯《あかり》が点くと間もなく、お由は何時《いつ》もの通り裏梯子《うらばしご》から、山名国太郎《やまなくにたろう》が間借りをしている二階へ上って来たのであった。
「今夜はね、根岸《ねぎし》の里《さと》へ行って来るっ
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