て胡魔化《ごまか》して来たのよ。私だって、たまにはゆっくり泊《とま》って見たいもの。――大丈夫よ。まさか親分だって、そんなに女房を疑っちゃ、お爺《じい》さんの癖に外聞が悪いもの。かまうもんか、知れたら知れた時の事さ」
 妖婦《ようふ》気取りのお由は、国太郎にぴったり寄添いながら非常に嬉しそうであった。そして散々この気の弱い青年をいじめぬいて、少しも側から離そうとはしなかったが、つい先刻《さっき》になって不図《ふと》気が変ってしまった。
「矢《や》っ張《ぱ》り私、帰った方が好《い》いわ。あんた怒りゃしないわね。又来るには泊らない方が出好いもの、ね」
「だってもう十二時過ぎだぜ」
「怖《こわ》かあないわ。こう見えたって白蛇のお由さんだもの。夜道なんか平気よ」
「じゃ、其処《そこ》まで送って行こう」
「無論だわよ」
 お由はまだ国太郎に絡《から》み纏《まつわ》りながら、裏梯子から表へ出た。が、塀を一つ曲って此処まで来ると、
「あら、私紙入れを置いて来ちゃった。ほら、先刻《さっき》帯を解いた時、一寸本箱の上へ置いたのよ。あんたが悪いんだから、いそいで取って来てよ」
 お由は国太郎の胸を肩で小突
前へ 次へ
全28ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング