った。
一体《いったい》お由は、今戸町《いまどまち》に店を持っている相当手広い牛肉店|加藤吉蔵《かとうきちぞう》の妾《めかけ》兼《けん》女房なのであった。が、悪い事にはこの吉蔵が博徒《ばくと》の親分で、昔「痩馬《やせうま》の吉《きち》」と名乗って売り出してから、今では「今戸の親分」で通る広い顔になっている。しかもお由はその吉蔵親分の恋女房であった。
今から五年ばかり前、お由がまだ二十歳《はたち》で或る工場に働いていた頃、何処の工場でもそうであるが、夕方になるとボイラーから排出される多量な温湯が庭の隅の風呂桶《ふろおけ》へ引かれて、そこで職工達の一日の汗を流すことになっている。その鉄砲風呂の中から、お由の膚理《きめ》のこまやかな、何時もねっとりと濡れている様な色艶の美しい肌が、工場中の評判になってしまった。
「お由さんの体は、まるで白蛇のようね」
その白蛇の様な肌を、何かの用で工場へ来合《きあわ》せた吉蔵が一目見て、四十男の恋の激しさ、お由に附纏《つきまと》う多くの若い男を見事撃退して、間も無く妾とも女房とも附かぬものにしてしまったのである。
こうしてお由は娘から忽ち姐御《あねご
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