ゆび》の尖端《せんたん》二ヶ所に、喰いいったような探い傷があること、同様な傷が又両足の裏にもあるのであったが、極《ご》く小さい上に血のにじみ出た形跡もないので、或いはお由の死後吉蔵がつけたものかも知れぬ、とも考えられていた。ところが、丁度其処へ遊びに来た電気工学のW助教授が一目これを見るや、「君、これは高圧電気に感電した時受けた傷だよ」と助言した。

 警察署では主任が吉蔵の調べに手を焼いて、一先ず訊問を打切り、屍体遺棄のかどにより、変電所の土岐健助に拘引状を発しようとしていた。その申請書《しんせいしょ》を書き始めた時、パッと室内の電灯が消えた。そして、停電は珍しくも近来に無く一時間も続いたのである。
「どうしたと言うんだ、冗談じゃ無い」
 主任がついに堪《たま》りかねて、変電所へ電話で問い合せて見ようと立ち上った瞬間、電灯はサッと明るく室内へ流れた。同時にジリジリと電話のベルが鳴ったのである。それは大学の法医学教室から、お由の死因が高圧電気の感電であった事を知らせる電話であった。
 主任の横顔は極度に緊張して、受話器を掛けると一刻の猶予《ゆうよ》もなく土岐技手拘引の手続きにかかったが
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