にお前さん妾《わたし》のことが心配なら、いっそ腕を切るなり耳を落すなりして置きゃいいじゃないか、どうせ妾はお前さんの物なんだからって、よく言っていたんです。それが本気なんだから驚くじゃありませんか。そいつをあっしはあの晩お由の屍体を見るなり思い出したんで、――こうして置けば厭《いや》でも灰にしてしまわなけりゃならねえ、そうすればもう二度とこの綺麗な手足は自分の物で無くなってしまうんだと思うと、へッへ、まあそんな気持からあっしは大急ぎで家へ取って返し、腕と脚を貰ったという訳なんです。仕事は血が飛ばねえように、あの小川の中でやりました。――あっしのやったのは只これだけで、お由を殺した犯人についちゃ、あっしだって判りゃとっくに殺しちまいまさあ……」
 然し主任に取っては、吉蔵が屍体を損壊したのも一時脱《いちじのが》れの口実を作る手段と思えぬことも無かった。
 この問題のお由の両腕と両脚は、大学の法医学教室に廻されて、熱心に犯行事実を研究されていた。その結果、吉蔵の申し立てた切断方法が肯定された以外に、不思議な傷口が別に四ヶ所発見されたのであった。第一は左手の拇指《おやゆび》と人差指《ひとさし
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