べ室では、極度に緊張しきった吉蔵の訊問が続行されていた。然し彼は何処までも犯人は自分で無いと主張するのである。
「あっしはあの晩、玉の井へ行ったって事を申し上げましたが、実はお由と喜多公のことが気になって、寺島《てらじま》の喜多公の家へ様子を見に行ったんです。しかし、お由は愚《おろ》か喜多公も家にはいないらしいんで、それでは他所《よそ》で密会をしていやあがるんだと思い、白鬚橋を橋場の方へ戻って来ました。其時ふとこいつあ千住の方にいるんじゃないかと思ったんで、変電所へ踏込む積りで、橋の袂《たもと》を右へ、隅田《すみだ》駅への抜道をとりました。多分二時を少し廻った時刻でしたが、すると彼処《あそこ》に御存知の様に、何んとか言う情事《いろごと》の祠《ほこら》があるんで、そいつを一寸|拝《おが》んで行く気になったんです。そして、序《ついで》に小便をしようと思って、祠の裏手へ廻ると、其処でお由の死骸を見附けてしまったんで、あっしはびっくりしてしまいました。――旦那の前ですが、あの女には一寸変ったところがありましてね、詰り痛い目に会わされると喜ぶ様な性質《たち》なんでさ。だから、よくあっしに、そんな
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