ある。壁は刑事の手に依って扉《ドア》の如く左右に押し開けられ、忽ち間口《まぐち》一|間《けん》奥行《おくゆき》三尺ばかりの押入れが現われた。その押入れの中央に仏壇《ぶつだん》の様に設置してある大冷蔵庫。その扉《ドア》を開けて見せられた時、さすがの主任も「アッ」と顔を背けずにはいられなかった。中には若い女の太股のあたりから下の立ち姿、――草葡萄《くさぶどう》のくすんだ藍地《あいじ》に太い黒の格子《こうし》が入ったそれは非常に地味な着物であったが、膝頭《ひざがしら》のあたりから軽く自然に裾をさばいて、これは又眼も醒《さ》めるばかり真紅《まっか》の緋縮緬を文字通り蹴出《けだ》したあたりに、白い蝋《ろう》の様なふくら脛《ずね》がチラリと覗《のぞ》いている。何う見ても若い女の腰から下の立ち姿であった。言うまでも無くこれはお由の両脚で、同時に其処から両腕も発見された。これ等は時を移さず警察へ押収《おうしゅう》されたが、親分加藤吉蔵は既にお由殺しの有力な嫌疑者として、主任と入れ違いに拘引されていたのであった。
やがて夜は明け放れた。世間は綻《ほころ》び初めた花の噂に浮き立っていたが、警察署内の取調
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