から護送《ごそう》されて来た。青年は数日の懊悩《おうのう》にめっきり憔悴《しょうすい》して、極度の神経衰弱症に陥《おちい》っているらしく、簡単な訊問《じんもん》に対してもその答弁は案外手間がとれた。が、結局国太郎は前述の委細を全部自白させられたのである。そして直ちに問題となったのは土岐健助の行動であった。先ずその屍体遺棄の方法が咄嵯の手段として余りに計画的であった事。殊に、彼は国太郎に向って、
「喜多公が相棒だから――」と言っているが、事実その夜、田中技手補は非番であって、変電所の日記によってもそれは明らかな事であった。では何故土岐がこんな虚言《きょげん》を弄《ろう》したか?
 その時取調べ室の電話が突然響き渡ったのである。捜索主任は直ぐに受話器を取ったが、突然サッと顔色を変えた。そして国太郎の訊問を一時中止すると、二三の部下は何事か囁《ささや》いて、あたふたと一緒に自動車へ飛び乗った。
 夜は既に三更《さんこう》に近かった。
 自動車を棄てて主任が加藤牛肉店のくぐり戸を入ると、其処に張り込んでいた刑事が待っていて、直ちに奥の吉蔵の居間へ案内した。その部屋の一方の壁に仕掛けてあったので
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