た喜多公は、そこまで言われるとキッとなって形を改めた。「冗談なら冗談でいいが、親分! それを本気でお言いなさるんなら黙っちゃいませんぜ。べら棒め、姐御の屍骸《しがい》が何を喋っているか知ってるなア、一人ばかりじゃねえ!」
「何んだと? てめえはそれじゃ、おれの恩を仇《あだ》で返《けえ》す気だな。よし、そんなら言って聞かせる事があらあ。一体、お由の屍骸を一番初めに見附けて来たなあ何処の何奴《どいつ》だ。あの晩、てめえは何処で何をしていやあがったんだ。お由の胸へ匕首《あいくち》を差し附けて……」
「親分、それじゃ姐御を殺したなあ、あっしだと言うのか!」
「胸に聞いたら判ることだ」
「何んだと!」
 さっと茶呑み茶碗が飛んで壁に砕けた。途端《とたん》に血相《けっそう》を変えた二人が、両方から一緒に飛びかかって、――が、其の場は仏《ほとけ》の手前《てまえ》もあるからと、居合せた者が仲へ入ってやっと引分けている内に、丁度《ちょうど》張込んでいた刑事がどかどかと踏込んで来た。そして関係者一同はすぐに拘引《こういん》されてしまった。
 しかし二時間ほどすると、エレキの喜多公だけを残して、他の一同は警
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