うこくしょく》を呈していた。
(こんな筈は無い)土岐は余りの事に思わず顔を背けたが、不図、今頃は多分三十里も東京から離れてしまったあの気の弱い国太郎が、若しこれを見たら何んな事になったろうと思った。と同時に、彼は自分が昨夜犯した屍体|遺棄罪《いきざい》から、完全に救われた様な気軽さも覚えて、もう二度とお由の不気味な屍体を見る気はなく、其の儘|踵《きびす》を返したのであった。
だが、なんという奇怪な事件だろう。お由は露路に三分間ほど一人で立っている間に、何者にか巧妙な手段で、一つの傷も残さず殺害されていた。その屍体は土岐と国太郎の手に依って空地へ運ばれたが、翌朝になるとそれが一枚の布も纏わずに投出され、しかも何者にかその四肢を切断された上持去られている。考えように依っては、痴情《ちじょう》の怨《うら》みか何にかでお由を殺した最初の犯人が、なお飽き足らずに屍体を運ぶ二人の後を附け、其処で再び残忍な行為を犯したとも思えるし、或いは空地に棄てられた後お由は偶然に蘇生《そせい》して、通り合せた何者かに再びこの無惨な殺害をされたとも思えぬ事は無い。
兎に角、この白蛇のお由の不可解な謎の屍体は、
前へ
次へ
全28ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング