きちんと並んでいた。
「ふーん、悪くない気持だて」
 彼は悦《えつ》に入《い》って、頤《あご》のさきを指でひねりまわしながら、室内を見まわした。セザンヌが描いた南フランス風景の額がかかっている。南洋でとれためずらしい貝殻の置き物がある。本箱には、ぎっしりと小説本が並んでおり、机のうえには杉材でこしらえた大きな硯箱《すずりばこ》がある。すべて見覚えのある品物だった。
 彼は、懐《なつか》しげに、一つ一つの品物をとりあげては撫でてまわった。
 そのうちに、彼の手は、机のひきだしにのびた。ひきだしを明けて、中の品物をかきまわしているうちに、彼は青い革で表を貼ったりっぱな手帖に注意をひかれた。
「おや、こんな手帖が入っている。見覚えのない品物だが……」
 なぜ自分の所有ではない青い手帖が、ひきだしの中に入っているのか? 誰かが引越のとき間違えて、このひきだしの中へ入れたのであろうと思いながら、彼はその手帖をひらいてみた。とたんに、彼は思わず大きなおどろきの声をあげた。
 なぜといって、その手帖にこまかく書きこんである文字は、たしかに彼の筆蹟《ひっせき》だったのであるから。
「ふーむ、これはたし
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