明日からは、自由の身になれる。うれしいなあ」
 と、彼は子供のようにぴょんぴょん室内をとびあるいていた。そうかと思うと、急にむずかしい顔をして、ぶつぶつつぶやきながら動物園の狼になりきってしまう。
「想い出しても、おそろしい一年だった。いや、一年の月日がたったことは本当だが、自分は一年というものをすっかり覚えていないのだ。正気《しょうき》づいたときは、すでに半年あまりの月日がたっていたのだからなあ。その間《あいだ》自分は、全く無我夢中で、生死の間を彷徨《ほうこう》していたのだと後になって聞かされた。それからこっちも、ときどき変な気持に襲われた。なんだか、五体がばらばらに裂けてしまうような実に不快な気持に陥《おちい》ったのだ。なにしろ、物を考える機関である大脳の手術をやったのだというのだから、恢復までに、どうしてもそうした不安定な過渡期《かとき》をとるのだと黒木博士が説明してくれたが、そんなものかもしれない」
 今も昂奮《こうふん》と憂鬱《ゆううつ》とが、かわるがわる彼を襲ってくるのだった。彼は、手術のことについて、博士に聞きただしたいたくさんの事柄《ことがら》をもっていた。だが博士は、
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