、左に矢部が寝かされていた。
こんどの手術は、わりあい簡単にいった。半年もすると、矢部の方は、まだいくぶん元気がなかったが、宮川の方はもう退院できるようになった。
「おい婦長。いよいよ宮川氏は明日退院させるが、君になにか意見はないかね」
「まあ、黒木|博士《せんせい》。わたくしになんの意見がございましょう。この前は、宮川さんがたいへんな外傷《がいしょう》を負っていらしったせいで、あのように手術後の恢復も長引き、精神状態も危かしかったのでございましょうね」
「まあ、そんなところだろうよ」
看護婦長すら満足したほどの治癒《ちゆ》程度で、宮川は退院した。
病院の門を出て、彼が一つの町角《まちかど》を曲ると、そこには洋装の佳人《かじん》が待っていて、いきなり彼にとびついた。それは外ならぬ山崎美枝子だったのである。
「まあ、宮川さん。ずいぶん待ってたわよ」
「おお美枝子さん。こんどこそ僕は、君を失望させないよ」
二人は小鳥のようにたのしそうによりそいながら、向うの通りに消えた。
ところが、それから二三日たって、宮川は真白な救急車にはこばれて、黒木博士の病院へかえって来た。彼の顔には、白
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