い布《ぬの》がかぶせてあった。博士は、その布をのけて宮川の後頭部をしらべたが、そこには描写《びょうしゃ》のできないほどのひどい傷があった。
「警部さん、連れの女はどうしました」
「ああ、黒木博士、連れの女は、逃げてしまいました。行方を厳探中《げんたんちゅう》です」
「犯人の方はどうしましたか」
「ああ、八形八重《やがたやえ》という年増女ですか。これはその場で取押《とりおさ》えて、一時本庁へつれてゆきました」
「精神病院から逃げだしたんだそうですね」
「そうです。ですが、この八形八重という女は、どうも正気《しょうき》らしいですぜ。この前の事件で、刑務所に入るのがいやで、装っていたんじゃないですかなあ。被害者宮川のうしろから忍びよって兇器《きょうき》をふるったことを、こんどははっきりした語調でのべました」
「ふーん、そうですか」
「こんどまた被害者宮川が博士の手で生きかえれば、きっとまた殺さないでおくべきかといっていましたよ。まるで芝居のせりふもどきですよ、ははは」
「いや、この傷では宮川氏はもう二度と生きかえらないでしょう」
 宮川は、彼が捨てた八形八重のため、二度も兇刃《きょうじん》を
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