ですもの。あたし、それをかえしたいとおもったのよ)
 そこで宮川の胸もはれて、美枝子の手をとったというのだ。
 そこまではよかったけれど、やがてのこと彼は、美枝子をすっかり憂鬱《ゆううつ》にさせてしまったというのだ。
「それはどうしたわけですか」
 博士は宮川の面《おもて》を熱心にみつめながら尋《たず》ねた。
「それはつまり、私の心が冷たいといって、彼女が口惜《くや》しがりだしたんです」
「あんたはなにか冷淡《れいたん》な仕打《しうち》をしたのですか」
「そこなんですよ博士、はじめは私も熱情を迸《ほとばし》らせたようですが、あるところまでゆくと、急にその熱情が中断してしまったのです。そして俄《にわか》に不安と不快とに襲われたのです。そのとき頭の中に、別の一人の女の顔が現れました。それは日本髪を結った白粉《おしろい》やけのした年増の女なんです。その女が、髷《まげ》の根をがっくりと傾《かたむ》け、いやな目付をして私に迫ってくるのです。払えども払えども、その怪しい年増女が迫ってきます。そういう不快な心のうちを、どうして美枝子に話せましょう。彼女にとって私が冷淡らしく見えたというのは、まだよほ
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