りの脳を買いとって、私のここに入れてください」
 そういって彼は、自分の頭を指さした。
「それはまたどうしたのですか」
「いや、女の問題です。じつはこういうわけです」
 と、語りだしたところによると、宮川は、手術|恢復後《かいふくご》、頭の中に一人の女性の幻《まぼろし》がありありと見えるようになった。彼はその女性がたいへん慕《した》わしくて、なんとかしてその本人があるなら会いたいと思っていた。ところが、その幻の女こそ、矢部の愛人|山崎美枝子《やまざきみえこ》だということがわかった。
 その美枝子に、宮川はきのうはじめて会った。そして幻の女は、まちがいなくこの女であると確《たし》かめた。美枝子もはじめて会った彼に、たいへん熱情をよせた。
 彼が矢部のことをたずねたところ、彼女はきっぱりと説明した。
(矢部さんはあたしが大好きだというんです。そしていろいろと自分でも無理算段《むりさんだん》をしたようですわ。でもあたし、矢部さんがどうしてもすきになれませんのよ)
(でも、さっき、あなたは矢部君をよびとめたではありませんか)
(そうよ。だって、あの人がいろいろ無理をして買ってくれたものがあるん
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