いと思っていたところだ」
「ほんとですか」
矢部は、すぐれない顔色に、微笑をうかべていった。
「ほんとだとも。そのかわり、僕のどんな質問に対しても、君は正直にこたえるんだよ。いいかね」
「ははあ、交換条件ですか。ようございます。八十円いただけますなら、当分栄養をとるのに事かきませんから。なんですか、質問というのは」
それを聞くと、宮川はにやりと笑い、
「大いによろしい。いや、質問といっても、大したことじゃないんだ。君はちかごろ、美枝子《みえこ》さんというひとに会うかね」
「美枝子にですか。いや、会いません。こんなあさましい窶《やつ》れ方《かた》で会えば、愛想《あいそう》をつかされるだけのことですからねえ」
「それはへんだね。そんなに永く美枝子さんに会わないでいられるとは、おかしいじゃないか。君の愛情が冷えたのではないか」
「そういわれると、すこしへんですがね。第一ちかごろ健康状態もよくないことも、原因しているのでしょう。質問というのはそんなことですか」
「いや、もう一つあるんだ。その美枝子さんというのは、丸顔のひとで、唇が小さく、そして両頬に笑《え》くぼのふかいひとじゃないかね」
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