それを思い出してごらんなさい」
「あっ――」
 宮川は、びっくりして、指さきから煙草をぽろりと地上にとりおとした。
 そうだ、煙草ぎらいで通った自分だった。しかるに今は、煙草の匂いをかぐと、吸わずには我慢しきれないのだ。一体これはどうしたのだろうか。
「どうです、わかったでしょう。煙草好きの僕の脳を、あなたの脳につないだから、そうなったんです。いや、きょうあなたに会いたかったのは、金も使いはたして欲しくはあったが、僕の脳を植えつけた後のあなたが、どんな風になっているかを見たい気持もあったんです。全《まった》くおそろしいもんだ。あなたは煙草ずきになった。おかげで僕は煙草がたいへんまずくなってさびしい。この繃帯の下には、あなたと同じような手術の痕《あと》があるんですぜ。その下をあけてみると、僕の脳は、或る部分欠けているのです。僕は金のために、それをあなたに売ったけれど、その金を使いはたしてしまった今日《こんにち》、惜しいことをしたと後悔しています。近来、どうも身体の具合がよくなくていけないのです。美枝子にも会いたいと思うが、こんな身体だから、遠慮しているんだ」
 矢部青年は、ひとりでべらべ
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