なたの脳につぎあわせたんです。見事にその大手術をやってのけた黒木博士も、あなたの再生の恩人なら、脳髄を提供した僕もまた、あなたのためには大恩人なんですよ。それを忘れて、僕を袖にするなんて、そんな恩しらずなことがありますか」
 怪青年矢部は、とんでもないことをいいだした。


   脳を売った男


「うそだ、うそだ。そんなことはうそだ」と、宮川はつよく否定した。
「なに、僕がうそをいっているんですって」と怪青年矢部は唇を曲げて笑い、「あははは、そう思いますかね。では、ちょっと聞きますが、あなたはさっき煙草を吸っていましたね。うまかったですか」
 そういいながら、矢部はポケットから巻煙草をとりだして、火をつけた。
 宮川は、煙草の匂《にお》いをかぐと、咽喉から手が出そうになった。
「一本、あなたにあげましょうかね」
「じゃ、もらおう」
 宮川は、煙草をすいたい慾望を制しきれなくて、手を出した。そして火をつけるのも待ちどおしい様子で、すぱすぱと煙を肺の奥に吸いこんだ。
「どうです。煙草はうまいでしょうが。ところで僕は質問しますけれど、あなたは手術前には煙草が大きらいだったじゃありませんか。
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