よ。僕は矢部というものです。あなたはご存知ないかもしれないが、僕の方はよく知っています」
怪青年矢部は、つらにくいほど、ゆっくりした語調でいって、無遠慮《ぶえんりょ》に宮川の横にかけた。
「とにかく、僕は君に見覚えがない。たのむから、早く向うへいってくれたまえ」
「よろしい、向うへいきましょうが、ここまでついて来たには、こっちにすこし用事があるんです。金を五十円ばかり貸してください」
「なんだ、金のことか。五十円ぐらい、ないでもないが、見ず知らずの君に、なぜ貸さねばならないか、その訳がわからない」
宮川も、すこし落付《おちつき》をとりもどして、逆襲したのだった。
「ははあ、その訳ですか。あなたは本当にご存知《ぞんじ》ないのですか。これはおどろきましたね」といって、矢部は帽子を脱いだ。
「なんだい、そ、それは……」
宮川はさっと顔色をかえた。矢部が帽子をぬぐと、なんとその下からは、ぐるぐる巻に繃帯《ほうたい》した頭が現れたのだった。
「これでお分りになったでしょう。あなたが、頭に大きな傷をうけて、もう死ぬしかないという切迫《せっぱ》つまったときに、ここから僕の脳髄の一部を裂いて、あ
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