に絶叫したとき、浴客ははじめて総立ちになって振返った。由蔵は垢摺《あかす》りを持ったまま呆然《ぼうぜん》と案山子《かかし》のように突っ立っている。二人の職人風の伴《つれ》は、それと見るより呼応《こおう》して湯槽の傍へ駆けつけて来た。
「おい。兄弟、手を、手を貸した」
「よし来た!」
 向う見ずに、今にも湯槽へ飛び込もうとするのを見て、例の学生風の男が大声で制した。
「危い! 待った待った。感電らしい。飛び込んだら、今度は君達がやられちまうぜ!」
「あッ、然《そ》うだった。危い危い! しかし此儘《このまま》見殺《みごろ》しが出来るもんじゃない。何とか、おい番頭さん、何とかしなければ――」
「電気の元を切るんだ。おい番頭君、早く電流を断《た》つんだよ!」
 学生風の男に云われて、由蔵は漸《ようや》くあたふたと釜場《かまば》へ通う引戸《ひきど》を押して奥の方へ姿を消した。
 バタバタと板の間を走る足音。カタコトと桶の転がる音など――女湯の客が、何か異常を知って狼狽《ろうばい》しているらしいけはいだった。やがて間もなく、真蒼《まっさお》になった女房が番台から裾《すそ》を乱《みだ》して飛び降りて
前へ 次へ
全41ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング