来るなり、由蔵の駆けて入った釜場の扉口《とぐち》で甲高《かんだか》い叫びを発した。
「大変です。お前さん、大変ですよお!」
続いて太い男の声で、
「電気を切ったぞお!」
と、再び由蔵が流し場へ戻って来た。
「さあ、電気は切りました」
「大丈夫だな。じゃ、早く――」
学生上りが、いらいらと促《うなが》すのを、臆病《おくびょう》そうに老人が尻込《しりご》みした。
「ええッ焦《じ》れってえ、もう大丈夫だというのになあ。そおれ!」
と、職人風の一人が、見るに耐《た》えかねたといったかたちで、さっと勢い込んで両手を湯槽に入れた時、ドヤドヤと向井湯の主人や、下足《げそく》の小供、脱衣場《だついば》の番人のお鶴《つる》などが駆けつけて来た。
「由蔵どうしたんだ、いったい?」
主人はこの椿事《ちんじ》に対して何等見当がつかないので、むしょうに怒りっぽく由蔵をきめつけようとした。
「どうもこうもねえ、感電で客が一人この湯ん中へ沈んじまったんだ。早く救け出さにゃ死んでしまわあな!」と職人風の一人が叫んだ。
「え、感電? そら大変だ、由蔵入れ!」
主人は仰山《ぎょうさん》に驚いて、顎《あご》で由
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