、肌にひろがる午前の冷気《れいき》に追われて、ザブンと一思いに身を沈めた。熱過《あつす》ぎる位の湯加減である。頤《あご》の辺《あたり》まで湯に漬りながら、下歯をガクガクと震わせながら、しかも彼は身動きすることを怖れて、数瞬じいっと耐《こら》えていた。と、唐突《いきなり》、
「熱《あつ》ッ」と叫びながら、遽《にわ》かに飛び出したのはその学生らしい男であった。忽《たちま》ちに、湯槽の中は激しい波が生《しょう》じて、熱湯《ねっとう》が無遠慮に陽吉の背筋に襲いかかった。ブルブルブルと一竦《ひとすく》みに飛び上った彼は、湯槽の縁《へり》に手をかけて出ようとした瞬間、
「吁《あ》ッ!」
 という叫びと共に、彼の体は再び湯の中に転倒してしまった。全身に数千本の針を突き立てられたような刺戟、それは恰《あたか》も、胃袋の辺に大穴が明《あ》いて、心臓へグザッと突入したような思いだった。指先は怪魚《かいぎょ》に喰《く》いつかれたような激痛を覚えた。
「た、救《たす》けて! で、電気、電気だ。感電だ!」
 ザアッと湯の波に抗《さから》って、朱塗《しゅぬり》の仁王《におう》の如く物凄く突っ立った陽吉が、声を限り
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