出すなり、狙《ねら》い撃《う》ちに彼女の咽喉《のど》へ射放《いはな》った。果して、あの致命傷《ちめいしょう》であったのだ。
転げつ、倒れつ、悶々《もんもん》のたうち返る美人の肉塊《にっかい》の織り作《な》す美、それは白いタイルにさあっと拡がってゆく血潮の色を添えて充分カメラに吸収された。が、十数秒の短い時刻で、敢《あえ》なくもお照は動かずなってしまった。
だが、樫田武平は美事な成功に雀躍《こおどり》して、そのフィルムだけを外《はず》すと、そのまま逃走しようと試みた。が、その時であった。由蔵は、別の目的を以て同じこの天井裏へ上って来たのである。というのは、彼は感電騒ぎを知るや忽《たちま》ちにして警察の取調べがこの天井裏の電線に及ぶのを慮《おもんぱか》って、其処《そこ》は秘密を持つ身の弱さ、望遠鏡を外すために人知れず梯子《はしご》を昇って這《は》い上ったのである。
当然、樫田武平と由蔵との両人が、高い天井の暗がりで睨み合うことになった。が、何分にも大きな声を出すことを許されぬ場合のこととて、互《たがい》に敵視しながらも一言も云わず、必死と眼《まなこ》を光らし合った。やがて、由蔵は、己
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