《てる》という二十二歳になる料理屋の女で、その日はこの向井湯の近所に住む伯母の所を訪ねて来た者であった)の肉体に魅力《みりょく》を感じ、愈々計画の実現に志《こころざ》したのであった。
その時は正午少し前だった。女湯の客は、そのお照の他に、僅に三人であった。男湯の方は前述の通り、井神陽吉と他に四人、で、頃合いを計って、彼は男湯の電気風呂に高電圧を加えた。果せるかな、手応《てごた》えがあって、井神陽吉が飛んだ犠牲《ぎせい》となったのである。それからのちは、少くとも表面だけの騒動は前述の通りであった。が、女湯の客のうち、お照を除いた他の三人は、ひとしく上《あが》り際《ぎわ》だったので、隣りの騒動を機《きっかけ》に匆々《そうそう》逃げ去ったのであった。が、お照はただ一人、湯槽《ゆぶね》の側で間誤間誤《まごまご》していた。というのは、女故《おんなゆえ》の辱《はずかし》さが、裸体で飛び出す軽率《けいそつ》を憚《はば》からせたのと、一人ぽっちの空気が、隣の事件を決して重大に感ぜしめなかったものらしかった。が、何はともあれ、樫田武平にとっては究竟《くっきょう》の機会であった。
彼は用意の吹矢を取り
前へ
次へ
全41ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング