店にあった小形撮影機を一台と、パンや蜜柑《みかん》などの食料品、束髪の西洋鬘《せいようかつら》などを一緒に風呂敷に包み、向井湯の裏口へ赴《おもむ》いた。そして物蔭に隠れて種々《いろいろ》と様子《ようす》を窺《うかが》ったのち、午前十時頃、由蔵の隙《すき》を窺《ねら》ってその部屋から天井裏に忍び込んだ。彼が斯《か》く忍び込むまでには、充分の用意と研究が積まれてあったことは勿論《もちろん》である。彼は、先ず汽罐《きかん》を開けて自らの着衣《ちゃくい》と下駄とをその中に投入して燃やし、由蔵の部屋で由蔵の着衣をそのまま失敬して天井裏に忍び込んだのであった。
彼は、勿論相当の電気知識を備えていた。故《ゆえ》に、男湯の方の感電を計画し、またそれを遂行《すいこう》するための技術上の操作は、十分間も要さずに易々《やすやす》と行われた。それが終ると、彼はかねて探って置いた、由蔵の秘密の娯《たの》しみ場所たる、女湯の天井の仕掛のある節穴《ふしあな》の処へ来て、由蔵が設置した望遠鏡の代りに、持って来た撮影機を据えつけた。
やがて、時が来て、当日の生贄《いけにえ》となった例の女(後で判明したが、彼女はお照
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